社長のコラム 今月のヒント
令和03年07月号
仕事に対する考え方
森浩美さんの小説『家族連写』は、家族をテーマにした八つの短編集である。その一つ『お駄賃の味』をご紹介しましょう。
遊園地の専務をしている50代の裕之は、ある日、入場ゲートでスタッフに呼び止められて困った様子の母子(おやこ)を偶然目にする。化粧っ気のない母親と色褪せたトレーナーの少年だった。事情を聞くと、母親が持ってきた招待券の有効期限が過ぎているというのである。
母親は「うっかりしていました」と頭を下げ、小学2、3年生と思しき息子に「これじゃ入れないんだって。今日は帰ろう」と言い、踵(きびす)を返して駅のほうに向かって歩き出した。少年は母親に文句や不平を言うわけでもなく、ただうなだれて一緒に歩き出した。裕之の心がざわめいた。その後ろ姿に貧しかった少年時代の自分が重なる。
裕之は帰りかけた母子を呼び止め、少年に言った。「君はうちのジャンパーを着て、ゲートで半券をお客さんに渡す。できるか?」。少年は1時間ほど仕事をした。そしてお駄賃として入場券をもらい、ゲートをくぐった。
子供ならお駄賃であるが、大人になって会社に勤めるようになれば、それはお給料という事になる。大切なことは、(生活のためにお給料をいただくという)自分の目的を達成するためにお客様に精いっぱいのサービスを提供するんだという気持ちをもって仕事にあたり、そうすることで、お客様から「お駄賃」がいただけると考えている。